ニュー・ヴィジョン・サイタマは、現在、活躍中で今後さらなる活動が期待されるアーティストに焦点をあてる展覧会です。出身や在住など埼玉県にゆかりのあるアーティストの中から、各学芸員が最も注目する1名を選出し、その近作や新作を紹介します。アートの現状に触れながら、これからのアートの行方を展望していきます。
出品作家の紹介(展示順)
樋口恭一 HIGUCHI Kyoichi
1959年東京都生まれ、埼玉県鶴ヶ島市在住/彫刻
樋口恭一の作品はどこか懐かしい記憶を思い起こさせます。石を割り出し、その一片一片を組み合わせてできたかたちは、時に石垣や昔の道具のような構造物を連想させもします。太古から地上に存在していた石に取り組んだ樋口は、現代の視点で究め、甦えらせたかたちを始源の状態に戻そうともします。また、作品が「うまれてくる」という状態を保持するために「つくる」という行為の痕跡をできるだけ消そうと努めています。太古と現代とのあいだによこたわる時間と空間感覚を作品にいかにいかすか、樋口恭一の探求は続けられます。
(推薦学芸員:伊豆井秀一)
秋元珠江 AKIMOTO Tamae
1971年浦和(現さいたま)市生まれ、さいたま市在住/写真、映像
結んでは消えまた生まれては消える刹那にも、めまぐるしくかたちを変えるシャボンの泡。秋元珠江の今回の新作では、作者が子供の頃から親しんだ北浦和公園の草花や美術館周辺の見覚えのあるかたちが、さまざまな光彩を帯びて浮かんできます。膜の奥側にピントが合った場合には、写り込んだ風景が捉えられ、手前側にピントが合った場合には、1ミクロン前後のわずかな膜厚の違いで光の干渉が発生し、色の変化が現れてくるのだそうです。重なり合う泡が光や彼方の空と織りなすこの美しい万華鏡を、窓の外の景色とあわせてお楽しみください。
(推薦学芸員:中村 誠)
市川裕司 ICHIKAWA Yuji
1979年埼玉県嵐山町生まれ、東京都町田市在住/絵画
透明な支持体の上で踊る和紙と箔、そして方解末の奔流。色彩の訴求力を排した素材の選択には、絵画のミニマルな条件を探求する理知的なアプローチがうかがわれます。透過性のある支持体は、展示空間を作品の文字通りの背景としてとり込むと同時に、表面のスペクタクルを陰影として壁面に再び描き出して、図と地の関係を二重化・三重化します。絵画は物理的なアイデンティティを保ったまま、それが成立する現象的な「場」だけを複数化・不安定化させていくのです。
(推薦学芸員:渋谷 拓)
塩崎由美子 SHIOZAKI Yumiko
1954年浦和(現さいたま)市生まれ、スウェーデンとさいたま市に在住/写真、映像
ほんものの蝋燭の灯の向こう側に揺らぐもう1本の蝋燭はホログラム(立体画像)。それを見つめていると心の内を深く静かに降りていく感覚に包まれます。自然の風景や日々の暮らし、そこで交わる人とゆっくり交した時間を凝縮した塩崎由美子の作品は声高に何かを語りはしません。しかし、そこにこめられた「生」とは何かという濃密な問いが、作者個人を越えてあなたを揺り動かすのではないかと思うのです。住まいであるストックホルム郊外で撮った厳寒の森などの新作をまじえた写真、ホログラム、映像に、その答えを探ってみませんか。
(推薦学芸員:大越久子)
榮水亜樹 EIMIZU Aki
1981年埼玉県春日部市生まれ、春日部市在住/絵画、立体作品
言葉を失うほどの静けさ。白い点や線で描かれた絵画や小さな物体は、この上なく繊細で、はかなげです。しかし、そこにあふれる白い光は、まるで記憶の底まで届いて、なにかが照らしだされるような感覚すらもたらします。何層にも重なる深さと複雑さで精緻につくられた榮水亜樹の画面に見入っているうちに、その白い光にさらされたあなたの感覚はやがて絵画にとりこまれます。この至福のときをぜひ味わっていただきたいと思います。
(推薦学芸員:前山裕司)
荻野僚介 OGINO Ryosuke
1970年埼玉県川越市生まれ、東京都練馬区在住/絵画
「声量のない大声。」自らの絵画を荻野僚介はそんな逆説めいた言葉でたとえます。モチーフは、奇妙な図形のようなものであったり、素っ気ないくらい即物的な具象形態であったりします。それらが緻密にかつ平板に描かれる荻野の絵画は、あからさまでからっとしています。にもかかわらず、特異な色彩表現に彩られたその作品を前にすると、脳裏に深く浸透していくような絵画の表情があらわれ、時にはユーモラスな、時には気高い印象さえ与えてくれるのです。新作の絵画を中心とした今回の展示で、その不思議な魅力を十分に味わえるはずです。
(推薦学芸員:平野 到)
町田良夫 MACHIDA Yoshio
1967年浦和(現さいたま)市生まれ、神奈川県横浜市在住/印画紙作品、映像、音楽
映像作品、コラージュ作品を経て、印画紙の露光・現像・定着の過程でイメージを生成する「フォトバティック」へ。フィールド・レコーディングによる音響コラージュを経て、自作のスティールパン「アモルフォン」を中心とした作曲・演奏活動へ。美術家/音楽家として多彩な活動を繰り広げる町田良夫は、印画紙作品、音楽作品、そして新作の映像作品を発表します。「光の響き」としての印画紙作品の明滅、「音の響き」としての音楽作品のカット・アップ、自在にコントロールされる時間軸…。視覚と聴覚が交錯する「記憶と忘却の共鳴」へ。
(推薦学芸員:梅津 元)
会期
2011.1.29 [土] - 3.21 [月]
休館日
月曜日(ただし、3/21は開館)
開館時間
10:00~17:30 (入場は閉館の30分前まで)
観覧料
一般800円(640円)、大高生640円(520円)
※( )内は20名以上の団体料金。
※中学生以下と65歳以上、障害者手帳をお持ちの方(付き添い1名を含む)はいずれも無料です。展覧会入場時に確認いたしますので
・65歳以上の方は、年齢を確認できるもの(運転免許証、健康保険証等)をご持参ください。
・障害者手帳をお持ちの方は、手帳をご持参ください。
主催
埼玉県立近代美術館
協力
JR東日本大宮支社、FM NACK5